510

淑やかなる殺意
寂しささえ失って
星の数ほどの涙
異世界ばかり夢みる
月までの距離を計測中
むせ返るような死の予感
呼吸ができるまでの辛抱
おまえを信じる馬鹿は居ない
音色は見えないのに
透き通りすぎてゼロになる

520

臆する病と書いて
生命を土に葬る
追憶を水に葬る
濡れた頬を撫でる
強烈に眩く刹那に暗く
マニキュアが乾くまで
君の葬式には行けない
燃える空に溶かされて
滲む青は海に返る
舌が強かに誘うので

530

軽薄だと嘲笑って
私はそれを悲しみ嘆く
君に僕を刷り込ませるために
容易く言ってくれる
足をつける場所がない
私達は描くでしょう
青を愛しすぎて空へ還る
死体の浮いた水族館
糸を血で染めればいいさ
インディゴ・エレジー
インディゴ…鮮やかな藍色の染料
エレジー…悲しみを歌った詩などの文学作品

540

踊るか殺すかレイディー
恋するだけのエナジー
愛のアレルギー
確かに俺は愚かだよ
天才と云う名の凡愚
どうか清廉な君であれ
着服するのは金か身体か
ヘリオスコープのその先で
ヘリオスコープ…太陽観測用望遠鏡
それは神様に由来する
操ってみせるのは終末

550

白骨は嗤う
胸に溜まった澱み
徳のあるうちに眠れ
涙がこぼれるのに必要な重力
好んで善良を殴打する
未だ理解の外にいる
心があれば目は要らない
二度と交わらぬ善と悪
すべてが想像と虚構の中にある
我々の血液に溶け込んでいたもの

560

自由を鎖に繋ぐ
浅ましさの応酬
愛を求めて枯れた喉
私と君がいないだけ
もうさよならにしよう
殺し屋は二度嘘をつく
寝室は孤独で出来ていた
時は悲しみをさえ吸い込んで
無かったことにするには遅い
彼誰時かたわれどき、泣きながら目を覚ます

570

面影を越えてしまった
あまりにも清純な午後
黒手袋に覆い隠して
日曜日のために生きている
あなたの声で聴かせて
溜息の隙間に海を見る
だから好きにならないで
百の薔薇に隠された視界
つまらない幸せを捧げよう
祈っていた内容がわからない

580

歩く毛布が堕落を誘う
冬はいつでも眠りの底にある
ナイフが傷だけを残すように
どんな奴でも血は赤い
口にする度薄まる言葉
きみの幽霊を住まわせて
僕を置いて幸せになるな
私はこのまま大人になるわ
未だおめおめと生きています
私の心をだけでは足りませんか

590

朝をおかわり
夜の食べ残し
月に花、あなたに私
干涸らびたクチビル
海さえ抱き締めた包容力
守るには薄すぎる目蓋
洟をすすれば露見する
紅を引いた女だけが笑う
睫毛の隙間に見える闇
あらゆる世界のノンフィクション

600

いろはにほへとで散っていく
その日、誰かが嘘をついた
ここから月は見えません
歩く速度で死に絶えた
私を追うのは後にして
夜を支配する銀河とは
染色的とも言うべき営み
ここには希望だけが無い
人から与えられた絶望の中で
光だけを求めて死ぬ虫のよう

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